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Vol.25 イタリアの甘い風邪処方

イタリアの甘い風邪処方Dolci Ricetta Italiane per il raffreddore

マンマの処方が一番!La migliore ricetta e’ quella della mia mamma

ヨーロッパの石作りの建物は、夏は涼しくて気持ちがいいが、冬はシンシンと足元から冷気が上がってくるようで、身体全身がとても冷える。私が住んでいるトリノなどは、気温自体は真冬の東京とそれほど違いがないようだが、魚と野菜でできた薄っぺらい身体の日本人にはその冷気がこたえる。それで、私はひんぱんに風邪をひいている。
もちろん肉と脂肪とチーズとパスタでできあがった、あつい(幅もあついし、体温を熱い)身体のイタリア人だって風邪をひく。彼らは我慢ということを知らないので、ちょっと頭が痛いとか、熱があると言っては大げさに騒ぐ。すぐに市販薬に頼ってしまうのは現代人の悪い癖だが、そんな彼らも、大好きなマンマの甘い甘い風邪処方が大好きだ。
代表的なイタリアの天然風邪予防といえば、オレンジジュース。ジュースになって売っているやつじゃなく、飲む直前にお母さんが絞ってくれる「スプレムータ・ダランチャ」(オレンジを絞ったもの)はビタミンCたっぷりで、風邪予防に最適だ。日本人が冬中こたつで(?)ミカンを食べるように、イタリア人は毎日毎日このスプレムータを飲む。おしゃれ~に見えるかもしれないけれど、イタリアではオレンジのほうがミカンより安いし、どこにでも売っているので普通のことなのである。八百屋さんへ行ってオレンジをください、というと「食べる用? それとも絞る用?」と聞かれるぐらい。甘酸っぱい味と、オレンジの香りが部屋中に漂って、それだけでも元気が湧いてくる。
しかしいくらオレンジをたくさん飲んでも、あれ? 喉が痛いぞ、なんかゾクゾクするぞ、なんて時もある。そんな時は、「サルビア&レモン」だ。サルビアとはハーブの一種、セージのことだ。煮込み料理や肉を焼いたりする時、イタリアでは日常的に使うハーブだから、お庭やベランダや冷蔵庫にわりと普通に常備されている。で、このセージの葉を2,3枚とレモン汁、はちみつをティーカップに入れ熱いお湯を注げば、サルビアレモンのできあがりだ。セージには強力な殺菌作用があるので風邪菌を退治し、レモンのビタミンCで抵抗力を高めようということだろう。その上身体がポカポカと温まって、いい香り。とてもおいしいので、風邪をひいていなくても私は時々作っては楽しんでいる。
もっと強烈に身体をポカポカさせて元気をつけちゃおう! 風邪なんかやっつけちゃおう! という時には「ヴィン・ブルレ」の登場だ。赤ワインにシナモンやクローブなどのスパイスと、オレンジやレモン、りんごを加え、砂糖も入れて煮込み、熱々を飲むというものだ。味はサングリアのあったかバージョンといった感じ。フランスでも「ヴァン・ショー」(ホットワイン)という名前で同じようなレシピがあるらしいが、北イタリアのこの辺ではヴィン・ブルレ=焦がしたワインと呼ばれ昔から親しまれている。風邪予防はもちろん、スキー場や冬のアウトドアイベントなどにも欠かせない存在。
それでもやっぱり具合が悪くなっちゃったよ、という時には薬を飲んでおとなしく寝ているに限る。そしてそんな時、マンマが作ってくれるイタリア式おかゆが、なかなかおいしい。「リーゾ・ボッリート」(茹でたご飯)また「リーゾ・イン・ビアンコ」(白いご飯)と呼ばれるこの料理は、イタリア米をパスタと同じように茹で、水気を切ったら極上のオリーブオイルとパルミジャーノチーズをたっぷり削りかけていただくというもの。実はこれを私が初めて食べたのは、イタリアに来て初めて風邪をひいたとき、ホームステイ先でのことだった。その家のお母さんがわざわざ作ってくれたのだが、熱があってフラフラ、かつイタリア暮らし初心者の日本人の胃には、たっぷりのオイルやチーズは正直言って、オエッというものだった。梅干をそえた白い日本のお粥が食べたいよー、と母の顔を思い浮かべ、涙を浮かべたものだ。しかし後日、健康体でリーゾ・イン・ビアンコを食べてみると、なんだ、病人に食べさせるのはもったいないじゃないか、というおいしさ。エクストラバージンオリーブオイルの青い香りとピリっとした風味が、チーズとお米の甘みとからみあう。もちろんイタリア人たちは、病気の時にもこれを食べる。消化に優しい上に、オイルやチーズの甘みが身体に元気をつけてくれるというわけらしい。
こんなふうにイタリア人は、甘い風邪処方が大好き。そういえば、市販薬もみんな子供の薬みたいに甘い味がつけてあるのも、そのせいだろうか??


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住